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2011.11.26 会員証
その飲食店は、目立たない路地にひっそりと建っていた。
決して大きい店ではないが、それがかえって知る人ぞ知る名店といった印象を与えた。
しかしその店を知っていても、食事をすることは容易なことではなかった。
その店で食事をするには、会員証が必要だったのである。

ある日、男がこの店に立ち寄った。
「ここで食事はできるか」
「はい。ですが、普通の方はご遠慮させていただいております。会員証をお持ちの方でなければ」
「なんだ、この店は会員制だったのか」
「さようでございます」
「では会員になるとしよう」
「無理でございます」
それを聞いて、男は怪訝そうな表情を浮かべた。

「会員でなければ食事ができない。しかし肝心の、その会員になれないとは。おかしい。矛盾しているではないか」
「いえ、そう早合点なされては、困ります。つまり会員証の数をそれほど多く作ってはいないのです。会員の人数がとても少ないわけです」
「そんなことで儲かるのか」
「ええ。おかげさまでね。会員の方はみな、大金を置いていっていただけるので」
「なるほど、大金を払うだけの価値がある料理、というわけだな」
「そうなりますかな」
「仕方ない。出直そう」
そう言って、男は帰っていった。

数日後、店に再び男が現れた。
「どうだね、これで食事ができるだろう」
男が出したのは、高級感のある金色のカードだった。
「たしかに、我が店の会員証ですな。どうなされました?」
「大金をはたいて、会員の者から買い上げたのだ。きちんと会員の権利を譲るとの証明もある」
「証明書の証明というわけですな。よろしゅうございます。しばらくお待ちください」

店主がいったん、店の奥へと消え、しばらくしてから戻ってきた。
ただし、店主の手にあったのは、料理ではなく、拳銃だった。
「なんの冗談だ、わたしは食事をしにきたのだ。冗談につきあうつもりはないぞ」
「いえ、これが商売なのです。普通に会員を作ったのでは儲けはそうでません。しかし、料理がうまいとちらつかせる。つまりエサですな。そして、あなたのような方が大金を払ってまで会員証を手に入れるわけです」

そう言って、店主はポケットから男が持っているのと同じカードを取り出した。
「あ、つまりわたしに会員証を売ったやつ。あいつもぐるだったのだな。よくもだましてくれたな」
「いえ、わたしは嘘は申していません。しかし、あえて申し上げるなら……」

店主は慣れた手つきで拳銃の引き金を引いた。
「わたしは本当は料理が下手なのです」



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