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第91夜
「両手を覆う人々」



人ごみにまぎれて妙なものが見えることに気付いたのは去年の暮れからだ。
顔を両手で覆っている人間である。ちょうど赤ん坊をあやすときの格好だ。
駅の雑踏の様に絶えず人が動いている中で、立ち止まって顔を隠す彼らは妙に周りからういている。
人ごみの中でちらりと見かけるだけでそっちに顔を向けるといなくなる。
最初は何か宗教関連かと思って、同じ駅を利用する後輩に話を聞いてみたが彼は一度もそんなものを見たことはないという。その時はなんて観察眼のない奴だと内心軽蔑した。
しかし、電車の中や登下校する学生達、さらには会社の中にまで顔を覆った奴がまぎれているのを見かけてさすがに怖くなってきた。
後輩だけでなく何人かの知り合いにもそれとなく話を持ち出してみたが、誰もそんな奴を見たことがないという。だんだん自分の見ていないところで皆が顔を覆っているような気がしだした。
外回りに出てまた彼らを見かけた時、見えないと言い張る後輩を思いっきり殴り飛ばした。

俺の起こした問題は内々で処分され、俺は会社を辞めて実家に帰ることにした。
俺の故郷は今にも山に飲まれそうな寒村である。
両親が死んでから面倒で手をつけていなかった生家に移り住み、しばらく休養することにした。
幸い独身で蓄えもそこそこある。毎日本を読んだりネットを繋いだりと自堕落に過ごした。
手で顔を覆った奴らは一度も見なかった。
きっと自分でも知らないうちにずいぶんとストレスがたまっていたのだろう。そう思うことにした。
ある日、何気なく押入れを探っていると懐かしい玩具が出てきた。
当時の俺をテレビに釘付けにしていたヒーローである。
今でも名前がすらすら出てくることに微笑しながらひっくり返すと俺のものではない名前が書いてあった。
誰だったか。そうだ、確か俺と同じ学校に通っていた同級生だ。
同級生といっても机を並べたのはほんの半年ほど。彼は夏休みに行方不明になった。
何人もの大人が山をさらったが彼は見つからず、仲のよかった俺がこの人形をもらったのだった。

ただの懐かしい人形。だけど妙に気にかかる。気にかかるのは人形ではなく記憶だ。
のどに刺さった骨のように折に触れて何かが記憶を刺激する。
その何かが判ったのは生活用品を買いだしに行った帰りだった。
親友がいなくなったあの時、俺は何かを大人に隠していた。
親友がいなくなった悲しみではなく、山に対する恐怖でもなく、俺は大人たちに隠し事がばれないかと不安を感じていたのだ。
何を隠していたのか。決まっている。俺は親友がどこにいったか知っていたのだ。
夕食を済ませてからもぼんやりと記憶を探っていた。
確かあの日は彼と肝試しをするはずだった。夜にこっそり家を抜け出て少し離れた神社前で落ち合う約束だった。
その神社はとうに人も神もいなくなった崩れかけの廃墟で、危ないから近寄るなと大人達に言われていた場所だ。
あの日、俺は夜に家を抜け出しはしたのだが昼とまったく違う夜の町が怖くなって結局家に戻って寝てしまったのだ。
次の日、彼がいなくなったと大騒ぎになった時俺は大人に怒られるのがいやで黙っていた。
そして今まで忘れていた。

俺は神社に行くことにした。親友を見つけるためではなく、たんに夕食後から寝るまでが退屈だったからだ。
神社は記憶よりも遠かった。大人の足でもずいぶんかかる。
石段を登ってから神社がまだ原形をとどめていることに驚いた。
とうに取り壊されて更地になっていると思っていた。
ほんの少し期待していたのだが神社の周辺には子供が迷い込みそうな井戸や穴などはないようだ。
神社の中もきっとあのときの大人たちが調べただろう。
家に帰ろうと歩き出してなんとなく後ろを振り返った。
境内の真ん中で顔を両手で覆った少女が立っていた。
瞬きした。少女の横に顔を覆った老人が立っていた。
瞬きした。少女と老人の前に顔を覆った女性が立っていた。
瞬きした。女性の横に古めかしい学生服を着込んだ少年が顔を覆って立っていた。
瞬きした。皆消えた。
前を向くと小学生ぐらいの子供が鳥居の下で顔を覆って立っていた。
俺をここから逃がすまいとするように。
あの夜の約束を果たそうとするように…
2011.11.12 第81夜~第90夜
第81夜
「軽い遊び」



少し前教室で暇を持て余したので、数人の友達といつもの遊びをすることにした。
携帯電話から非通知でランダムに番号を押してハンズフリーで電話し、かかったらその相手をからかって笑うという悪趣味なもの。

その日は使われていない番号ばかりで、みんなが飽き始めた頃、ヒロという奴がかけた。
番号がつながった。

相手は女だった。

「もしもし」
「もしも~し」
「もしかして、ヤス君?」
「ちげーよ、誰だよヤス君って、彼氏か?おい」
「ヤス君私を忘れたの?ずっと一緒だって言ったじゃない」
「だからヤス君じゃねーって」
「嘘。その低い声はヤス君だよ」
「だから…」
「その耳のほくろはヤス君だよ」
「……」
「そのお腹の傷はヤス君だよ」
「うっせ、切るぞ」
「やめて、切らないで、ヤス君」
「ふん、知らねーよ」
「まあいいや、すぐに会えるから」
「は?なんだこっちに来るとでもいうのかよ?」
「違うよ、ヒロ君がこっちに来るんだよ」
「え?」
「ひひひひひひひ」
そこで電話は切れた。

確かに彼の耳にほくろはあったが、お腹の傷はどうだかしらない。

あれがただからかわれただけなのかはヒロ君と会えない今となってはもうわからない。
2011.11.12 第71夜~第80夜
第71夜
「僕の彼女」



みてくれも悪く、なにをやっても上手くいかない…
そんな僕にも、この前やっと初めての彼女ができた。
正直言って、僕なんかには勿体無いくらい美しい。
優しいし、細やかな気配りもできる人だ。
彼女は大学生だか僕は社会人なので、そういつも会えるわけではないが、毎週月曜日にはいつも僕の為に食事を作ってくれる。
しかし、何でもこなす器用な彼女だが、料理だけは苦手なようだ。
ここだけの話、いつも美味しいと言って食べてはいるが、正直まともに食えたものではない。
彼女よ、いくらなんでもペットフードを人間の食べ物の食材に使うのは無理があるぞ…

この前、彼女と夕方に近くの並木通りを散歩していた時、ふと彼女が、ちょっと困ったような顔で、「ねぇ、私幸せになれるかな…?」と呟いた。
「なれるさ、きっと僕がしてみせる」
そう僕は答えた。
その時の、夕日をバックに髪を風になびかせながら振り返る彼女の美しい姿は今もこの目に焼き付いている。

そんな幸せな日々も長くは続かなかった。
最近になって、彼女はため息をついたり、何か落ち着かない様子が多くなってきた。
僕は心配して彼女の相談にのってあげようとしたが、結局彼女は何も話してはくれなかった。
原因はすぐに分かった。
どうやら他の男と浮気しているらしい。相手は彼女の大学の先輩のようだ。
悲しみと怒りが一気に込み上げてきた。もう何もかもおしまいだ…
彼女を殺して僕も死のう…それしか、あの二人だけの楽しかった日々に帰る方法はない。

僕は包丁を持って彼女の家に行った。彼女がドアを開けた途端、僕は彼女に切りかかった。
彼女は泣きながら傷ついた腕を押さえ、部屋の奥へと逃げた。
初めは「許して…許して…」と言っていたが、覚悟を決めたのか、急に大人しくなった。
そして、恐怖に怯えた顔でこう言った。

「最後に…一つだけ教えて…」

僕はゆっくりと頷いた。

「…あ………な……」

彼女は震える声で、こう尋ねた。そして僕は全てを悟った。





「あなタハ…ダ…レ……?」
2011.11.12 第61夜~第70夜
第61夜
「妖怪百物語


自分の友人たちと「妖怪百物語をやろう」ということになった。
怖い話100本を、1本やるごとにローソクを消してくというもの。

100の話が終わって、100本ロウソクを消すと、幽霊が現れるっていうものを期待しながら、怖がりながら始めた。

当日はなんと25人集まり、妖怪百物語を始めることにした。
しかし、100本終わってロウソク消しても何も起らなかった。

帰り道

「何も起らなかったな。やっぱりウソだったんだよ」
などと話しながら帰っていたところ、

「最後、順番回ってこなかったな」
って言う奴がいるの。

えっ?
25人いるんだから、順番回ってこないわけない。
それで、録ってたテープを再生してみると1人だけ持ち主のいない話があって、よく聞いてみたら、
「俺、おととい死んじゃってさ…」って話してた…
2011.11.12 第51夜~第60夜
第51夜
自分検索



自分(女)の名前で検索をかけてみた。
すると十数件、同姓同名の人たちが検索に引っかかった。
研究者や会社の経営者、同じ名前でありながら全然別の生活をしている人たち。
その中に「○○○○○(自分の名前)のページ」というHPがあった。

それはプロフィール、BBSだけの初心者が作った感じのよくある個人のHPだった。
プロフィールを見ると、自分と同じ歳であり、趣味なども良く似ている。
BBSなどを見ると、常連っぽい人が5~6人いるらしく、この手のHPとしてはまあまあ流行ってる感じだった。
何となくお気に入りにして、時々見るようにした。

しばらくすると、コンテンツに日記が増えた。
日記は、まあ、そのへんのサイトによくある内容の薄い日記だ。
今日は暑かったとか、日本がサッカー勝ったとか、そんな感じの

ある時、日記の内容が自分の生活とよく似ていることに気づいた。
始めに気づいたのは野球観戦に行ったときだ。その日、そのサイトの管理人も同じ球場に行ったらしい。
その時はもちろん偶然だなとしか思わなかった。球場には何万人もの人間が行くのだから。
次の日の、日記は会社でミスをしたことについて書いてあった。
私もその日、会社でミスをして少々落ち込んでいた。

次の日も、その次の日も、よく見ると日記の内容はまるで自分の生活を書かれているようだった。
大半は「カレーを食べた」とか「CDを買った」など対した偶然ではない。
しかし、それが何ヶ月も続くと気味が悪くなってきた。

ある日、掲示板を見ると、常連たちが管理人の誕生日を祝っていた。
その日は私も誕生日だ。
それでいよいよ怖くなってきて初めて掲示板に書き込みすることにした。

しかし、書き込みしようとしても、名前や内容を書くところに文字が打てない。
色々やってみるが書き込めないどころか文字すら打てない。

「おかしいな?」と思っていると、あることに気づいた。
それは掲示板ではなく、ただのページだった。
つまり、一人の人間が掲示板っぽく見せかけて作った一つのページだったのだ。

「いったい何のためにこんなこと…」とすごく怖くなり、
管理人にメールを打った。
「初めまして。私は貴方と同姓同名の人間で、よくこの~」のような当たり障りのないメールだ。

そして次の日、そのページを見ると、全て消されていた。
メールボックスには一通
「見つかった」
という返信があった。
2011.11.12 第41夜~第51夜
第41夜
「別人」



俺は視力がすごく悪いし色盲。そのうえ正直、耳も悪い。

俺と彼女は車事故を起こした。俺はしばらく入院した。
一緒に退院した彼女は優しく声をかけてくれたが、えらくやせてしまってた。
まあそれでも俺のこといたわってくれるので去年、結婚した。

…最近気づいたんだけど、やっぱり別人だと思うんだよ。俺の嫁。
事故を境に、やっぱり別な人になってると思うんだ。

鈍すぎるとかバカとか言われるかもしれないけど…
俺、こういう風に知覚が弱いから。人は雰囲気くらいでしか判断つかないんだよ。
体臭がまず変わったし、肌もなんか急に年を取った気がする。
俺は「女子ソフト部出身」だと聞いていたが「部活はしてなかった」というし、とにかく昔の話を避けたがる。
昔は首に大きなホクロがあって「チャームポイント」だっていってた。
そんで今の嫁には首になんのホクロもない。

すごく長い複雑な事情があるんだけど結論を言う。
嫁は別人だった。法的にも。
俺は相手が何者か知らないままに結婚した愚者だった。
もう、なんかショックで書く気になれない…
これからどうしたらいいんだ…もうだめだ…
仕事もなにもかも辞めてこのまま消えます。
2011.11.12 第31夜~第41夜
第31夜
「彼女に言えていないこと」



大学時代の友人から、「うちに遊びに来ない?」と電話が入った。
声を聞くのは半年振り、実際に会うとなれば1年ぶりにもなるのだなあと、仕事明けのぼんやりした頭で話半分に聞いていたらいつの間にか、 2週間後の週末を彼女の家で過ごすということになっていた。

当日は急な仕事が入ってしまい、夜、仕事が終わるとそのまま彼女の家へ向かった。
着いてすぐに手料理を振舞われ、彼女の仕事の愚痴を聞き、土産にと持って行った 酒やつまみを空けきるころには日付を越えてしまっていた。

それではもう寝よう、と気分良く横になりまぶたを閉じたのだが、落ち着かない様子で寝返りを打つ彼女が気になってうまく眠れない。
どうしたのかと聞けば、実は言っていない事があるの、と気まずげな様子で彼女が言う。

「2週間前からなんだけどね。手首がでるのよ」

よくわからない、と首を傾げると、彼女は少し離れた位置の ベットの真正面いちにあるクローゼットを指差した。

「一番初めは、クローゼットの隙間から指が出ていたの。そのときはただの見間違いだろうと思って、気にしなかったのよね」

でも次の日、今度は本棚の影に指をみつけて、また次の日はテーブルの横に手がみえた、と彼女は言った。

言われた通りの順に目線を動かして行けば、その"手"は明らかにベットを目指して移動している。
実際に見たわけでも無いのに、背筋がぞわぞわした。

それでね、と強張った顔で彼女が言う。
「それでね。昨日ついに、ベットの縁に手首があったのよ」
だからもしかしたら、今日、何か起こるかもしれない、と力なく続けられた言葉に色々と思うところが無いではないけれど、結局何も言えなくなってしまった。

そのまましばらく、私が無言でいると彼女は急に笑い出して、嘘よ、と言った。
「誰か泊まりに来たときに、驚かそうと思って考えた話なの」
怖かった?と笑う彼女はとても楽しそうだったので、私は少し困ってしまった。

実は私も、さきほどから彼女に言えていないことがあったのだ。
手の話を彼女が始めたとき、彼女の背後をとるように 座り込んでいた男が徐々に前へと傾ぎ始め、話が終わる頃には彼女に覆いかぶさり、 それからずっと、笑う彼女の顔を凝視しつづけているのだけれど、 果たしてそれを告げるべきなのか、どうか。

私はゆっくりと布団の中へもぐりこみ、何も見えないよう固くまぶたを閉ざした。
いつの間にか外では、雨が降り出していた。
2011.11.12 第21夜~第30夜
第21夜
「心霊スポット」



俺は友人と一緒に近くにある心霊スポットに行くことにした。
そこは有名な心霊スポットでよく”出る”と評判だった。
さて、行くかと二人が車に乗り込んだ時に雨が降り出した。

友人は「いいねいいねー雰囲気でてるじゃん」とふざけていたが
正直、俺は帰りたかった。

車道を走り、数分でその場所へついた。

俺と友人はその心霊スポットであるトンネルへはいった。
しばらく中を探索しても幽霊なんていやしない。

相変わらず、ザーザーと振っている雨に俺の気はすっかり滅入ってしまった。
「結局何もでなかったじゃないか。もう帰ろうぜ」

ため息混じりに口から出た言葉を友人にぶつけたら
友人はさっきからずっとブルブルと震えていた。

「何か起きたのか?何か見えたのか?」

友人は何も答えないので、仕方なく帰路についた。

帰り際友人は一言。

「お前は何も気づかなかったのか?」



【解説】
トンネルの中なのに雨が降っている…
2011.11.12 第11夜~第20屋
第11夜
「後女」



中1の夏でした。
私の祖母の一番上の兄、泰造さんが亡くなりました。
といっても、私は泰造さんとは殆ど面識がなかったのですが夏休みということもあり、両親と共にお葬式に出掛ける事になり、私はそのとき初めて泰造さんの屋敷を訪れたのでした。
そこは某県の山奥、大自然に囲まれた、まさしく田舎といった場所で、屋敷と呼ぶにふさわしい、古いながらもとても大きな家構えでした。

敷地内には鶏小屋があり、たくさんの鶏が飼育されていました。
泰造さんの娘にあたるおばさんが、売りには出せない小さな卵を私や親戚の子供達にくれたので、大人達が集まるまでの時間、私は子供達と一緒にその卵を使って、おままごとなどをして過ごしました。
そのうちお葬式が始まり、私は足の痺れと眠気と闘いながらあまり面識のない泰造さんの遺影を見つめていました。

そしてお葬式も滞りなく終わり、両親や親戚のおじさんおばさん達はビールや寿司を囲みながら、泰造さんの思い出話や子供たちの話、世間話などで盛り上がり、私もおじさん達にビールを注いだりと愛想をふりまきながら、やがて田舎の涼しく心地よい風を感じる夕暮れ時となっていました。
ふと尿意を感じた私は席を立ち、ひとり便所へと向かいました。

かなりの田舎ということもあり、便所は少し変わったつくりをしていました。
扉を開くと裸電球の下、まず男用の小便器があり、そこにまた扉があります。
それを開くといわゆる、ぼっとん便所が奥にあるのです。
ですが、電気は始めの個室の裸電球しかなく、私はふたつめの扉をあけたまま、薄暗いぼっとん便所で用を足すことになりました。

田舎の夏の夕暮れの独特な雰囲気と、慣れない木造の便所で少し気味が悪かったのですが、鼻歌を歌い、気を紛らわしながら用を足し、服を整えて振り返りました。

それはいました。

ひとつめの個室の裸電球の下、白い服を着て、真っ黒な長い髪を無造作に束ねた女のうしろ姿。
私は恐怖で体が痺れたようになり、厭な汗が体中から噴き出しているのを感じました。
どれぐらいの時間でしょう。長いような短いような。女の頭から目を離せずにいた私の耳に
「コォォーーーーー……」
という、かすれた音のような声のようなものが聞こえてきました。
それと同時に私は少しずつ視線を下へとおとしていきました。
私の目に飛び込んできたものは、異様に爪の長いおんなの手の甲…そして足の…指…?

こっちを向いてる……!!

うしろ姿だとおもっていた女は、まぎれもなく正面を向いていました。
髪をすべて前へ下ろし、あごのあたりでひとつに束ねていたのです。
女の顔は全く見えない…見えないけれど見える…見えない…
「ひぃぃ…ひぃぃ…」私はガタガタ震えながら、泣いていました。
そして女はゆっくりと両手をあげ、髪を束ねている紐に手をかけようとしました…
そのとき「ガタッ」と扉の開く音と同時に、父の姿が見えました。

グルッ

女が扉のほうへ振り返り、そこで私は気を失いました。

目を覚ますと、私は布団に寝かされていました。両親が心配そうに私の顔を覗き込んでいました。
「変な女がおったんよ!!怖かった…怖かった…」
また泣きそうになる私を見て、二人はうんうんと頷いていました。父はあの女の姿を見てはいないようでした。
少し落ち着きを取り戻した私に、おばさんが一冊の古びた冊子を持ってきました。
それは亡くなった泰造さんの覚え書きのようなものでした。
そのうちの黄ばんだ1ページに墨で描かれていた絵は、私が便所で見た女そのものでした。
「うちのお父さんな、こんなおそろしいもん、よう見とったみたいなんよ。
この覚え書きはお父さんが死んでしもてから見つけたんやけど、なんやいつもえらい怯えとったんやわ。
それやのに全然気付いてあげれんかった…」
そう言っておばさんは涙ぐんでいました。

その覚え書きを見せてもらうと、泰造さんはあの女のことを後女(うしろ女?)と呼んでいたようでした。
鶏の飼育についてや森での狩りなどの覚え書きの合間合間に、後女について記してありました。
今となってはあまり覚えていませんが、最後のページにはこう書いてあったと思います。

「後女の真の面、真の背、目にしたとき我は死すか」

私は後女が振り返ったあのとき、女の後頭部を見たような気もするし、見なかったような気もします…
2011.11.12 第1夜~第10夜
第1夜
「赤い部屋」


ある地方の女子大生が東京の大学に進学が決まり、東京に一人暮らしする事になりました。

とあるマンションで生活を始めているうちに、ある日部屋に小さな穴があいているのに気づきました。
その穴は隣の部屋に続いていて、何だろうと覗き込みました。

すると、穴の向こうは真っ赤でした。
隣の部屋は赤い壁紙なのかな、と思いつつ次の日も、次の日も
その女子大生は小さな穴をのぞいていました。


いつ見ても赤かったので、隣の部屋が気になった女子大生は
マンションの大家さんに聞いてみることにしました。
「私の隣の部屋にはどういう人が住んでいるんですか?」
すると大家さんは答えました。



「あなたの隣の部屋には病気で目が赤い人が住んでいますよ」