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2011.11.12 第81夜~第90夜
第81夜
「軽い遊び」



少し前教室で暇を持て余したので、数人の友達といつもの遊びをすることにした。
携帯電話から非通知でランダムに番号を押してハンズフリーで電話し、かかったらその相手をからかって笑うという悪趣味なもの。

その日は使われていない番号ばかりで、みんなが飽き始めた頃、ヒロという奴がかけた。
番号がつながった。

相手は女だった。

「もしもし」
「もしも~し」
「もしかして、ヤス君?」
「ちげーよ、誰だよヤス君って、彼氏か?おい」
「ヤス君私を忘れたの?ずっと一緒だって言ったじゃない」
「だからヤス君じゃねーって」
「嘘。その低い声はヤス君だよ」
「だから…」
「その耳のほくろはヤス君だよ」
「……」
「そのお腹の傷はヤス君だよ」
「うっせ、切るぞ」
「やめて、切らないで、ヤス君」
「ふん、知らねーよ」
「まあいいや、すぐに会えるから」
「は?なんだこっちに来るとでもいうのかよ?」
「違うよ、ヒロ君がこっちに来るんだよ」
「え?」
「ひひひひひひひ」
そこで電話は切れた。

確かに彼の耳にほくろはあったが、お腹の傷はどうだかしらない。

あれがただからかわれただけなのかはヒロ君と会えない今となってはもうわからない。
第82夜
「家族旅行」



あるところに、お父さん、お母さん、男の子、女の子の4人家族がいました。
最近、お父さんとお母さんの中は冷え切り、ケンカばかり。

そんな家族ですが、旅行に行きました。
しかし、子供達が寝てから、夫婦はまたケンカになりました。
カッとなったお父さんはお母さんを殺してしまいました。

次の朝、お父さんは子供達に何も言わずに3人で出発しました。
色々と見て回り、疲れたので休憩することにしました。
すると、お兄ちゃんが、


「お父さん、なんで朝からお母さんのことおんぶしてるの?」



第83夜
「冷蔵庫」



友人の部屋に泊まり込むと、ほとんど必ずと言っていい程「狭い場所に閉じ込められる」夢を見た。
しかも結構リアルで、手足を縮こまらせているしかないスペースの暗闇で、こちらからはどんなに叩いても悲鳴を上げてもぴくりともせず、何も出来ないままどんどん酸素が減って行くのだ。
いつも死ぬ寸前に目を覚まして、汗びっしょりで目を覚ましていた。

あるとき、その夢が中々覚めない事があった。
いつもなら夢が覚める辺りでも自分はずっとその場所にいる。
私は「これは夢だ」と必死に思い続け、どこかに体当たりして、ようやく目を覚ました。

布団から起き上がってぜいぜい言っていると、変な事に気づいた。
すぐ横のキッチンからかすかに物音がするのだ。
しかも聞いてみると、なんとなく聞き覚えがある。

私はそっちを向いて、状況を認識したとき、ぞっとした。
物音は冷蔵庫のなかから断続的に聞こえて来る。

そしてその音と言うのは、私の声に物凄く似ていたのだ。
「たすけて」「出して」とか、夢の中で言っていた叫び声だった。
なんか、冷蔵庫自体もがたがたいっていたような記憶がある。
やがて音は止んで何事もなかったように静かになった。
私はそれを確認した後、色々考えていたが、段々面倒になって来て、結局そのまま寝た。

次の日、友人に事情をそれとなく話すと、彼女も似たような目にあっていた模様。
幽霊云々じゃなく「落ち着いて寝られない」という理由で、彼女も流石に引っ越した。
今でも、あれは何だったんだろうなあと思う時がある。



第84夜
隣人の声」



大学生になって念願の一人暮らしを始めた。
立派ではないけど俺の城だ。

…だけどひとつだけ気になることがある。
3ヶ月たつが隣の住人を見たこと無い。
たしか入居してるって不動産屋が言ってたけど…なんか気味が悪い…

更に気味が悪いことに夜中になると、その部屋から女の押し殺したような笑い声が聞こえる。
毎日決まって3時ぐらい…ヤバイ女でも住んでんのかな?


ある日体調が悪く大学をサボっていたら不動産屋が新しい客を連れてきたのが窓から見えた。
そこで隣の入居者についてちょっと聞いてみた。
「ああ、隣は君と同じ歳の男の子だよ、同じ大学の子じゃなかったかな?多分今いるよ」
俺は思いきって挨拶しに行くことにした。

「こんにちはー、隣のものですけど…」
「はーい、なんですか?」

出てきたのは普通の男だった。
「いやー、なんか越してきて一度も会ってなかったんで…
なんか不動産屋から同じ大学とも聞いたんで…」
「ああ、君も○△大学なんだ、これから宜しく!俺いつも遅くまで居酒屋でバイトしてる
からあまり家に居ないんだけどね」
俺たちは他愛も無い話をした。

「そういやあ時々女の子の声するけど…」
「ああ、彼女同じバイトなんで一緒に仕事入った日は時々終わってから
こっちに来てるんですよ」
「ふーん、そうなんだ、じゃあ彼女さんに宜しく」
「もし良かったら今度一緒に部屋で酒でも飲みましょう!
そっちの彼女が来てる時に」

なかなか良いやつだなぁ~
あれ…でも、俺って彼女いるなんて話ししたっけ…
いないけど…w



【解説】
女性の声が隣の住人にも聞こえているんですね。
つまり、部屋と部屋を繋ぐ壁の中に女性がいる…



第85夜
メル友


ある田舎の高校1年生くらいの少女が、誕生日祝いに親に携帯電話を買ってもらった。
その子はとても喜んだが、その頃は携帯があまり普及していなく、また田舎ということも あり、少女のまわりの友達は誰も携帯電話を持っていなかった。

しかし、あるときその子の携帯に一通のメールが届いた。

その内容は 『メル友が欲しくて、適当に番号を入れて送ってみました。良かったらメル友になってくれませんか?』というものだった。

その子は当然喜び、その申し出を受け入れた。
その日からその子はそのメル友と毎日のようにメールをしていた。
そのメル友は男の子で、高2だということで、歳も近いその男の子に、少女は次第にひかれていった。
しかし、その男の子とはテレビや学校の話はするものの、どこに住んでるのかとかは不明だった。
男の子はあまりそういう話をしたがらなかったのだ。

ある日少女は意を決して男の子にメールで聞いてみた。
『声が聞いてみたい。それに、直接いろいろな話をしてみたい』というようなことを。

男の子は、しばらく間を開けた後『僕も直接話してみたい。今日の夜8時頃に電話するよ』というメールを返した。

女の子はとても喜び、どんなことを話そうかいろいろ考えながら8時を待った。
それから、8時を少し過ぎたところで男の子から電話がきた。

女の子は、男の子との初めての電話をまた後で聞き返したいと思い、録音機能を使いながら 会話をしていた。

男の子との会話はとても楽しく、ふと気が付いたら9時半をまわっていた。
女の子は、『もうこんな時間だ。また今度話をしよう』と、そこで会話を切った。
女の子はとても楽しかったな。と、男の子との会話を思い返していた。

が、なぜかあまりよく思い出せない。とても楽しかったことだけは覚えているのだけど。
そうこうしている内に、初めての電話という緊張から解かれた為か、眠くなってきてしまった。
今日はもう寝よう、と10時すぎには就寝していた。

突然、
『あんた何やってんの?!!』
と、母親の怒鳴り声がして女の子は目を覚ました。

女の子は2階の自分の部屋の窓から転げ落ちる寸前だった。
時計の針は2時を指している。
母親は女の子の部屋からやたら物音が聞こえるので見にきたのだった。

女の子はなぜ自分が窓の手摺りを乗り越えようとしてたのか分からなかった。
ふと、男の子との会話が気になった。
たしか録音してたはずだ、とその会話を聞いてみた。
その携帯に残っていた会話は、これだけだった。

『お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ。お前は今夜2時に窓から落ちて死ぬ』



第86夜
警備員バイト」



私は今年の夏はずっとバイトをしようと決めてました。
夜は警備員のバイトをしてそのまま朝、新聞配達をして寝るという生活が続きました。

ある日、社員の人が
「10分ほど行った所にあるビルなんだけどちょっと異常があったから見回ってくれない?バイト代に色付けるから」
と言ってきたので、一緒にまわる友人――まぁ、仮に友人をAとしましょう――と二つ返事で承諾しました。
その時はさほど変には思わなかったのですが、普通、時給のバイトに+?でバイト代を出すなんて今考えればやっぱり変ですよね。

異常があったのは5階建ての雑居ビルで、見た目からしてなんか出そうな所でした。
表の鍵は掛かっていました。もちろん裏もカギは掛かっていました。
鍵を開けて私とAは中に入りました。異常があったとされる1階は何もなし。

一応各フロアも回るように、と言われていたので、私と友人は各階ごとに一人が見まわり、もう一人が非常口が見えるエレベーターホールに待っていることに決めました。
そして5階は友人が見まわり4階は私が……ということになりました。

5階は普通のオフィスで、Aが見回っている間、私は非常口のドアノブを回したのですが、カギが掛かっているのか開きませんでした。
Aが「異常ないよ。こりゃもうけたな」っと笑ってホールに戻ってきました。

次は4階、私が見回る番でした。
階段が使えなかったのでエレベーターで4階へ。
そこは倉庫として使っているのか、ホールにも段ボールが積んでありました。
さて、行くかっと思ったその時、私の携帯に会社から電話が入りました。
アンテナが1本しか立ってなく、やばいかなーと思いながら出るとすぐに切れてしまいました。表示は圏外。

Aはここで待って、私は外に出て電話をかけ直すと言うことになり何の気なしに非常口のノブをひねると開きました。5階で非常階段を見回ってなかったので、私は階段で行くことにしました。
5階は異常なし。4階に戻るとAが「慎重すぎる」と笑いました。
3階、ここも非常口のドアは鍵が掛かっているらしく開きませんでした。
2階も同様に鍵が掛かっていて開きませんでした。
1階に着いたとき携帯がまた鳴り、表示を見ると会社から。アンテナは3本立っていました。

「あれ?」っと思い出ると、社員の人がAの事をしきりに聞くので、「普通ですよ。どうしたんですか?」
と聞くと、さっきから何度もAの携帯番号で会社に何回も電話がかかって来ているらしく、しかも出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないので、何かあったのか? と言うのです。
「いや、何もないです。Aの携帯の故障じゃないんですか?」っと笑いながら言うと、「なにも無いならいいんだ」と言って切れました。

階段で4階まで行くのは疲れるのでエレベーターで行こうと上ボタンを押したのですが、一向にエレベーターは4階から動きませんでした。
私はAが悪戯してるのだと思い、仕方なく階段で4階まで戻りました。
Aはエレベーターホールにはいませんでした。エレベーターを見ると1階に。
Aが私を驚かそうとしてどこかに隠れているのかな?と思い、一応4階を見回ったのですが、何処にもいませんでした。
先に3階を見に行ったのかな?っとエレベーターを呼び、乗り込むとAの携帯がエレベーターの中に落ちていました。Aの奴帰ったのか? と思い、私一人で 残り3フロアを見回りました。

終わったー疲れたーもう帰ろう―― このとき重要な事を思いだし脱力しました。

この場所には会社の車で来たのですが、運転はAが、私に至ってはバイクなら運転できるのですが車は運転出来ない。これじゃあ帰れないじゃないかーっと思い外に出ると、案の定会社の車はそこにありませんでした。
仕方なく私は歩いて会社へ戻りました。

その日、Aは私を置いて会社へ帰り、そのまま仕事を辞めてしまったそうです。
会社の人は私にもう帰っていいよと言いました。何か釈然としないものを感じましたが、臨時収入をその場で渡されたので「まぁいいか」と結局そんなふうに思ってしまいました。

制服を仕舞うときポケットの中にAの携帯が……返すの忘れてたのを思い出しました。
Aは自宅に電話を引いてないので、文句ついでに届けてやろうと新聞配達後Aの自宅へ行きました。

Aの家はかなりボロいアパートの二階の階段前。
寝てるけどいいよねっとチャイムを押しましたが出てくる気配なし。
何回も押すと近所迷惑だろうなぁーと思ったので、夕方にでも来てみようと私は家に帰って寝ました。

――私は電子音で叩き起こされました。
時計を見ると7:30。鳴っているのはAの携帯で出ると、電話相手はAの母親でした。
Aが家にいないそうなので、Aの母親に携帯を渡せばいいかと思い、またAのアパートに行きました。

チャイムを押すとすぐにAの母親が出てきました。
ドアの隙間からAの部屋の中がチラッと見えたのですが、変な柄の壁紙が張ってありました。
私は携帯を渡してそのまま帰るつもりだったのですが、誰かが階段を登ってくる音が聞こえると、Aの母親は「ここじゃなんだから」っと私を部屋に入れドアを閉めたのです。

中に入った時、私の顔は真っ青だったと思います。
それは、その変な柄の壁紙……は、壁紙だったのではなく、指から血が出ても壁紙をかきむしり続けた……そんな痕だったからです。それが、壁一面にあったのです。

Aの母親は「ペンキでも塗らないとダメね」 と雑巾でこすりながら苦笑しました。
Aの母親の話では、Aはあの仕事中人を殺してしまった とAの母親に電話を入れたそうですが、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったそうです。

その後何度電話しても話し中で、父親と話し合い、彼の母親が始発電車でAの所へ来たそうです。
そして管理人さんに電話を借りてAの携帯へ電話したそうなのです。
それを、僕がとったというわけです。
あいにくAの部屋の両隣は留守で、中で何があったかは分からないのだと言っていました。

そして先日。

Aから電話があり、会うことになりました。
Aはまるで別人の様な顔つきになっていて、はっきり言って喋るまで本当にAなのか?とさえ疑うほどでした。

実はAから電話があった後、彼の母親から電話があり、「Aがあなたに何を言っても、すべて 『Aが疲れていたせいだ。只の幻覚』だと言ってくれ」と言われていました。
その言葉に、Aは普通では考えられないような事を言うのだろうと、覚悟は決めていました。


彼が語った話とは……

あの日、私がAと4階で話し、階段で下に向かっているときエレベーターが1階に降りていったそうです。
Aは、私がダッシュで階段を下り、自分を驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうです。
そして、エレベーターの前で扉を背にして立っていました。

エレベーターが開く音、誰かがゆっくりAに近づく感じ……
しかしそのとき非常口のドアが開く音がしたんだそうです。
Aはあれ?っと思い振り返りましたが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかったそうです。
まさか泥棒!? と思ったAは、急いで非常口のドアを開けたそうです。
すると、扉が何かに当たったそうです。

懐中電灯で見ると、そこには髪の長い女が倒れていて、しかもその女の体はうつぶせであるにもかかわらず、頭はほぼ上を向いていたそうです。
Aは怖くなってエレベーターに駆け込むと、その中から、母親に電話をしたそうです。「人を殺した」と。
その時スーっとエレベーターのドアが開いたそうです。

そこには頭がいやな方向に曲がった女が、はいつくばりながらいたそうです。
エレベーターのドアは閉まる……が、女の腕に邪魔をされてまた戻る。
そんなことが何回か続いたそうです。
そして女は立ち上がり、曲がった頭をAの方へ向け

憶えたからね

と言ったそうです。
Aは女を突き飛ばしたそうです。
そして(私が1階でボタンを押していたので)エレベーターは1階に。
Aは無我夢中で会社へ逃げたそうです。
いきなり会社を辞め、バイクで急いで家に帰ったそうですが、部屋にいても女がやってくるのでは?と言う考えが頭を離れず、部屋から逃げ出したそうです……鍵もかけずに。

Aが後になって下の住人から「朝までガタガタ何やってたの?」と言われたときは、あの女が来たのだと思ったそうです。その話を聞いて私は嫌な汗が出ました。

下の住人の話からすれば、私がAの部屋に行っ たときもAの部屋にはソレがいたってことですよ?
玄関には鍵が掛かっていなかったんです。これがサスペンスドラマなら、私は必ずドア開けてますよ!
もしも、本当にそうしていたら、私はソレを見てしまったのかもしれないんです!!
……Aは今はそのアパートを出て違う所に引っ越したそうです。

臨時収入をつけてくれると言った会社が、このことを知っていたかどうか……それはわかりません。


第87夜
双眼鏡



俺にはちょっと変な趣味があった。
その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出てそこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。

いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しい。
遠くに見えるおおきな給水タンクとか、酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、ぽつんと佇むまぶしい自動販売機なんかを見ていると妙にワクワクしてくる。

俺の家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ漏れの家の方に向って下ってくる。
だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。

その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら「あ、大きな蛾が飛んでるな~」なんて思っていたら、坂道の一番上のほうから物凄い勢いで下ってくる奴がいた。

「なんだ?」と思って双眼鏡で見てみたら全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。
奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、漏れと目も合いっぱなし。

ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。

ドアを閉めて、鍵をかけて「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」って怯えていたら、ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。
明らかに俺を探してる。

「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」って心の中でつぶやきながら、声を潜めて物音を立てないように、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。

しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。
もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら、ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。
「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」って感じで、奴のうめき声も聴こえる。
心臓が一瞬とまって、物凄い勢い脈打ち始めた。

さらにガクガク震えながら息を潜めていると、数十秒くらいでノックもチャイムもうめき声止んで、元の静かな状態に……
それでも当然、緊張が解けるわけがなく、日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。
あいつはいったい何者だったんだ。

もう二度と夜中に双眼鏡なんか覗かない。



第88夜
「自殺」



サイレンやら何やらで外が騒がしいので、様子を伺いに出てみた。
すると下の階で警察が現場検証?らしき事をしていた。

「何かあったんですか?」と尋ねると「4階で飛び降り自殺があったんだよ」
うわぁ、と思って思わず下を覗いてみると、確かに下では誰かを搬送しているようだった。
「危ないから覗かないでね」と言われ、俺だってあんまり長居したくないし、早々に自分の部屋へ引き上げた。

しばらくして、どうなったかな?と気になって外に出てみると、まだ警察の現場検証が終わってなかった。
現場検証ってやる事いっぱいあって忙しいんだなーと思って「お疲れ様です、現場検証って時間かかるんですねー」
と警察に話しかけた。すると、警察は「いや、ちょっと不審な点が多くて時間がかかってる」と言った。
なんかあるんですか?と尋ねると、飛び降りたのは20代女性。
4階から飛び降りて即死だったらしいんだが、どうも飛び降りる以前に打撲の痕がある。
それに加え、階段に謎の血痕があり、結局それは彼女のものだったという。

いじめを苦にした自殺だろうなと思っていたが、風の噂でこんな事を聞いた。
恋愛と仕事の失敗で落ち込んでたらしい。



【解説】
この女性は二度、自殺を試みた。



第89夜
「集合団地」



昔住んでた集合団地での話。
朝6時くらいに起きてカーテンを開け何気なく外を見てたら、向かい側にある棟の階段の踊り場に女性の看護士さんが居た。
何か考え事をしてるのか、階段の方を見て突っ立っていたが、その時は特に気に留めることも無く、夜勤帰りなのか、大変そうだな程度に思い、コーヒーでも入れようと、その場を離れようとしたとこでふと疑問に思った。
その踊り場の見渡せるとこから、そこに居る人が見える範囲って、大体身長160~170cmの人の胸元くらいまでなんだが、その看護士は何故か腰のとこまで見えてたんだ。
身長にすると190cm以上超えてるんじゃないかというような位置。
見間違いかと思ってもう一度外を見たら、その看護士がこちらをガン見してニタァっと笑ってた。
俺は慌ててカーテンを閉めた。

その直後、ビーーッという呼び鈴が鳴りだし、俺はビクッとした。
脳裏にあの看護士が浮かんだが、まさかそんな早くにここまで来るとは思えないし、ただの偶然だろうと気を落ち着けつかせて、ドアの覗き窓を見たら何故か後ろ向きで猫背になっている看護士がそこに居た。
俺は怖くなって、ベランダに出て例の踊り場に看護士が居ない事を確認するとわが身を顧みず3階の高さから飛び降りて、近くの友人宅に逃げた。



第90夜
旅館の求人


そこには某県(ふせておきます)の旅館がバイトを募集しているものでした。
その場所はまさに私が旅行に行ってみたいと思ってた所でした。
条件は夏の期間だけのもので時給はあまり、、というか全然高くありませんでしたが、住みこみで食事つき、というところに強く惹かれました。
ずっとカップメンしか食べてません。まかない料理でも手作りのものが食べれて、しかも行きたかった場所。
私はすぐに電話しました。

「…はい。ありがとうございます!○○旅館です。」
「あ、すみません。求人広告を見た者ですが、まだ募集してますでしょうか?」
「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

受けつけは若そうな女性でした。
電話の向こう側で低い声の男と(おそらくは宿の主人?)小声で会話をしていました。私はドキドキしながらなぜか正座なんかしちゃったりして、待ってました。
やがて受話器をにぎる気配がしました。
「はい。お電話変わりました。えと、、、バイトですか?」
「はい。××求人でここのことをしりまして、是非お願いしたいのですが…」
「あー、、ありがとうございます。こちらこそお願いしたいです。いつからこれますか?」
「いつでも私は構いません」
「じゃ、明日からでもお願いします。すみませんお名前は?」
「神尾(仮名)です」「神尾君ね。はやくいらっしゃい、、、」


とんとん拍子だった。運が良かった。私は電話の用件などを忘れないように録音するようにしている。
再度電話を再生しながら必要事項をメモっていく。住みこみなので持っていくもののなかに保険証なども必要とのことだったのでそれもメモする。
その宿の求人のページを見ると白黒で宿の写真が写っていた。
こじんまりとしているが自然にかこまれた良さそうな場所だ。

私は急にバイトが決まり、しかも行きたかった場所だということもあってホっとした。

しかし何かおかしい。
私は鼻歌を歌いながらカップメンを作った。何か鼻歌もおかしく感じる。
日はいつのまにかとっぷりと暮れ、あけっぱなしの窓から湿気の多い生温かい風が入ってくる。
私はカップメンをすすりながら、なにがおかしいのか気付いた。
条件は良く、お金を稼ぎながら旅行も味わえる。女の子もいるようだ。旅館なら出会いもあるかもしれない。だが、何かおかしい。
暗闇に窓のガラスが鏡になっている。その暗い窓に私の顔がうつっていた。

なぜか、まったく嬉しくなかった。。
理由はわからないが私は激しく落ちこんでいた。
窓にうつった年をとったかのような生気のない自分の顔を見つめつづけた。


次の日、私は酷い頭痛に目覚めた。激しく嗚咽する。風邪、、か?
私はふらふらしながら歯を磨いた。歯茎から血が滴った。
鏡で顔を見る。ギョッとした。目のしたにはくっきりと墨で書いたようなクマが出来ており、顔色は真っ白。、、、まるで、、、。

バイトやめようか、、とも思ったが、すでに準備は夜のうちに整えている。
しかし、、気がのらない。そのとき電話がなった。

「おはようございます。○○旅館のものですが、神尾さんでしょうか?」
「はい。今準備して出るところです。」
「わかりましたー。体調が悪いのですか?失礼ですが声が、、」
「あ、すみません、寝起きなので」
「無理なさらずに。こちらについたらまずは温泉などつかって頂いて構いませんよ。初日はゆっくりとしててください。そこまで忙しくはありませんので」
「あ、、だいじょうぶです。でも、、ありがとうございます」

電話をきって家を出る。
あんなに親切で優しい電話。ありがたかった。
しかし、電話をきってから今度は寒気がしてきた。
ドアをあけると眩暈がした。
「と、、とりあえず、旅館までつけば、、、」
私はとおる人が振りかえるほどフラフラと駅へ向かった。

やがて雨が降り出した。
傘をもってきてない私は駅まで傘なしで濡れながらいくことになった。
激しい咳が出る。「、、旅館で休みたい、、、、」
私はびしょぬれで駅に辿りつき、切符を買った。そのとき自分の手を見て驚いた。
カサカサになっている。濡れているが肌がひび割れている。
まるで老人のように…
やばい病気か…?旅館まで無事つければいいけど…
私は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上った。
何度も休みながら。
電車が来るまで時間があった。
私はベンチに倒れるように座りこみ苦しい息をした。
ぜー、、、ぜー、、、声が枯れている。手足が痺れている。
波のように頭痛が押し寄せる。
ごほごほ!咳をすると足元に血が散らばった。
私はハンカチで口を拭った。血がベットリ…
私は霞む目でホームを見ていた。
「はやく、、旅館へ、、、」
やがて電車が轟音をたててホームにすべりこんでき、ドアが開いた。
乗り降りする人々を見ながら、私はようやく腰を上げた。
腰痛がすごい。
フラフラと乗降口に向かう。
体中が痛む。
あの電車にのれば…
そして乗降口に手をかけたとき、車中から鬼のような顔をした老婆が突進してきた。
どしん!私はふっとばされホームに転がった。
老婆もよろけたが再度襲ってきた。私は老婆と取っ組み合いの喧嘩を始めた。
悲しいかな、相手は老婆なのに私の手には力がなかった。
「やめろ!やめてくれ!俺はあの電車にのらないといけないんだ!」
「なぜじゃ!?なぜじゃ!?」
老婆は私にまたがり顔をわしづかみにして地面に抑えつけながら聞いた。
「りょ、、旅館にいけなくなってしまう!」
やがて駅員たちがかけつけ私たちは引き離された。
電車は行ってしまっていた。
私は立ち上がることも出来ず、人だかりの中心で座りこんでいた。
やがて引き離された老婆が息をととのえながら言った。
「おぬしは引かれておる。危なかった」
そして老婆は去っていった。
私は駅員と2~3応答をしたがすぐに帰された。
駅を出て仕方なく家に戻る。
すると体の調子が良くなってきた。声も戻ってきた。
鏡を見ると血色がいい。
私は不思議に思いながらも家に帰った。

荷物を下ろし、タバコを吸う。
落ちついてからやはり断わろうと旅館の電話番号をおした。
すると無感情な軽い声が帰ってきた。

「この電話番号は現在使われておりません、、」

押しなおす

「この電話番号は現在使われておりません、、」

私は混乱した。
まさにこの番号で今朝電話が掛かってきたのだ。
おかしいおかしいおかしい。。。
私は通話記録をとっていたのを思い出した。
最初まで巻き戻す。

、、、、、、、、、キュルキュルキュル、、、、、     ガチャ

再生

「ザ、、、ザザ、、、、、、、、はい。ありがとうございます。○○旅館です」

あれ、、?
私は悪寒を感じた。若い女性だったはずなのに、声がまるで低い男性のような声になっている。


「あ、すみません。求人広告を見た者ですが、まだ募集してますでしょうか?」
「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

ん??
私はそこで何が話し合われてるのか聞こえた。
巻き戻し、音声を大きくする。
「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、、、むい、、、、こご、そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「さむい、、、こごえそうだ」
子供の声が入っている。
さらにその後ろで大勢の人間が唸っている声が聞こえる。
うわぁ!!私は汗が滴った。。
電話から離れる。
すると通話記録がそのまま流れる。

「あー、、ありがとうございます。こちらこそお願いしたいです。いつからこれますか?」
「いつでも私は構いません」

記憶にある会話。
しかし、私はおじさんと話をしていたはずだ。
そこから流れる声は地面の下から響くような老人の声だった。
「神尾くんね、、はやくいらっしゃい」

そこで通話が途切れる。
私の体中に冷や汗がながれおちる。
外は土砂降りの雨である。金縛りにあったように動けなかったが私はようやく落ちついてきた。
すると、そのまま通話記録が流れた。
今朝、掛かってきた分だ。
しかし、話し声は私のものだけだった。


「死ね死ね死ね死ね死ね」
「はい。今準備して出るところです」
「死ね死ね死ね死ね死ね」
「あ、すみません、寝起きなので」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」「あ、、だいじょうぶです。でも、、ありがとうございます」


私は電話の電源ごとひきぬいた。
かわいた喉を鳴らす。

な、、、、なんだ、、、なんだこれ、、
なんだよ!? どうなってんだ??

私はそのとき手に求人ガイドを握っていた。
震えながらそのページを探す。
すると何かおかしい。
、、ん?
手が震える。。
そのページはあった。
綺麗なはずなのにその旅館の1ページだけしわしわでなにかシミが大きく広がり少しはじが焦げている。
どうみてもそこだけが古い紙質なのだ。
まるで数十年前の古雑誌のようだ。
そしてそこには全焼して燃え落ちた旅館が写っていた。
そこに記事が書いてある。
死者30数名。台所から出火した模様…
旅館の主人と思われる焼死体が台所でみつかったことから料理の際に炎を出したと思われる。
泊まりに来ていた宿泊客達が逃げ遅れて炎にまかれて焼死。

これ、、なんだ。。求人じゃない。。
私は声もだせずにいた。
求人雑誌が風にめくれている。
私は痺れた頭で石のように動けなかった。


そのときふいに雨足が弱くなった。。

一瞬の静寂が私を包んだ。



電話がなっている…

Secret

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